リヒャルト・ワーグナーの作品

歌劇「タンホイザー」より大行進曲

リヒャルト・ワーグナー

『リエンツィ』と『さまよえるオランダ人』という2つの作品は、ワーグナーの素晴らしい作品であると同時に、その後書きあげる傑作のための重要な階段でもあった。『タンホイザー』においては、作曲者の言う「移行の技術 Kunst des Übergangs」による従来の形式を脱却しようとする試み、伝説上の登場人物をより個性化させ、伝説の内容もより心理的に深化させていること、劇の構成力の向上、管弦楽の増大など、多くの点で前作からの飛躍を遂げている。

この歌劇はヨーロッパの2つの伝説、すなわち『タンホイザー伝説』と『ヴァルトブルクの歌合戦の伝説』を題材に構成されている。あらすじは以下の通りである。騎士タンホイザーはヴァルトブルク領主の姪エリザベートと清らかな愛情を交わしていたにもかかわらず、官能を求めてヴェーヌスベルクの山に踏み入り、妖艶なヴェーヌスと体を重ねた。しかし、そのうち官能の愛にも飽きてヴァルトブルクに戻る。城では騎士たちの歌合戦が開かれ、タンホイザーもこれに参加するが、他の騎士たちが清らかな愛をたたえて歌う中、彼は官能の愛をたたえる歌をうたい、人々に追放される。ローマ法王のもとに許しを乞いに行くが得られず、失意と自棄の念のなか、再びヴェーヌスのもとに向かおうとする。友人であるヴォルフラムは彼を思いとどまらせようとエリザベートの名を口にする。これによりタンホイザーは純愛の世界にもどったが、非情にもエリザベートはタンホイザーが救済されぬことを知って自死していた。彼女の骸にすがってタンホイザーも絶命する。死によって生が救済されるのである。

タンホイザーの大行進曲とは、第2幕第4場で、歌合戦の会場に騎士や来客たちが続々と入場してくる際の「入場行進曲」である。トランペットの高らかな導入に始まり、荘厳で力強い主題(譜例1)、典雅な主題(譜例2)、騎士の主題(譜例3)の3つの主題を中心に音楽が展開していく。

譜例 1

譜例 2

譜例 3

(Cl.4 大森 脩史)