リヒャルト・ワーグナーの作品

歌劇「ローエングリン」より抜粋

リヒャルト・ワーグナー

『タンホイザー』に続いて創作された『ローエングリン』はワーグナーにとって前期の最後の作品である。『タンホイザー』同様、彼はこの歌劇を「全3幕からなるロマン歌劇 Romantische Oper in 3 Akten」と呼んでいるが、もはや形式的には「楽劇 Musikdrama」ということができる。場面と基礎的曲調の一貫性、個々に遊離したアリアやレチタティーヴォの排除によって音楽と戯曲との関係がより緊密になっているからである。従来の「序曲 Ouvertüre」形式を廃し、「前奏曲 Vorspiel」を採用している点も特徴的で、『ローエングリン』は3つの前奏曲を有しており、それぞれ劇内容に沿った性格を持っている。

あらすじは以下の通りである。ドイツの藩国であるブラバント公国の郊外、募兵と激励に訪れたドイツ国王に対し、この地の藩主であるテルラムント伯爵がある訴えを持ちだす。公国の遺児エルザ姫が公国の後継者たるべき実弟を謀殺したという訴えである。ドイツ国王はすぐさまエルザを呼び裁判を行うが、エルザは夢に見た騎士が自分を守ってくれると言う。奇跡が起こり、白鳥のひく小舟にのって騎士があらわれる。騎士はエルザに、彼が伯爵との決闘に勝利したら妻となること、妻となってからも自分の名前や素性をたずねてはならぬことを告げる。白鳥の騎士は鮮やかに勝利し、大寺院にて婚礼を挙げる。しかし、部屋で二人きりになるとエルザは騎士に名と素性をたずねてしまう。これを機と見た伯爵が部屋に乱入し騎士に切りかかるも、逆に倒される。騎士はこれで夫婦の幸福は終わりだと嘆く。エルザが誓いを破ったため、騎士はこの地を去らなければならなくなったと言い、皆に自分は聖盃騎士ローエングリンであると語る。騎士はエルザに、船をひいて現れた白鳥が彼女の弟なのだと告げ、空からは聖盃奉仕の白い鳩が現れる。白鳥は弟の姿に戻る。白鳥の代わりに白鳩がひく船にのってローエングリンは去る。エルザは「あなた、あなた」と叫んで弟の腕のなかで崩れ落ち、息絶える。決して交わらないはずの人格と神格が出会ったために起きた必然的な悲劇と言えよう。

第3幕への前奏曲ならびに「婚礼の合唱」は結婚の喜びに満ちている。「祝賀の動機」(譜例1)、「歓呼の動機」(譜例2)による華麗な前奏曲、柔らかで幸福な響きを持った「婚礼の合唱」(譜例3)は演奏機会の多い名曲である。

譜例 1

譜例 2

譜例 3

(Cl.4 大森 脩史)