ジュゼッペ・ヴェルディの作品

歌劇「運命の力」序曲

ジュゼッペ・ヴェルディ

前作のオペラ『仮面舞踏会』から2年の間、ヴェルディは作曲の仕事からは遠ざかっていた。イタリア統一の立役者、カヴール首相に頼まれて国会議員を務めていたためである。ヴェルディ本人としては、元々政治家になりたかったわけではない上、自分にはその分野への愛も才能もないと感じていた。自分の本職である音楽の仕事に戻りたいとカヴールに話してはみるものの、「そのうちに」とはぐらかされて復帰できないでいた。しかし、予期していなかったことに1861年の6月、カヴールは亡くなった。ほとんど時を同じくして、著名なテノール歌手エンリコ・タムベリックの息子アキッレがサンクト・ペテルブルクから帰国したが、彼を通じてロシア帝室歌劇場からオペラの創作依頼が飛び込んできた。ヴェルディは再び創作意欲に燃え、これを受諾した。オペラの内容はヴェルディに任されており、彼は最初ヴィクトル・ユーゴーの『ルイ・ブラス』を構想したが、ロシア側の意向を汲んで、リヴァス公ドン・アンヘル・デ・サーヴェドラの戯曲『ドン・アルヴァーロ』、あるいは『運命の力』に変更した。初演は、1862年にロシアのマリインスキー劇場で行われ、大成功を収めたが、ヴェルディはあまりにも悲劇的な終幕を気に入っておらず、リコルディの勧めもあって1868年に終幕を修正して大規模な序曲(通常のOvertureではなくSinfoniaと題されている)を加えた改訂版を完成させた。

あらすじは以下の通りである。レオノーラとドン・アルヴァーロは愛しあう仲であったが、アルヴァーロにインディオの血が入っていることを理由にレオノーラの父カラストラーヴァ侯爵は二人の結婚を認めない。二人が駆け落ちをしようとしているところに父である侯爵が現れたが、その場で不幸な事故が起き、アルヴァーロは侯爵を殺してしまう。二人は別れて逃げるも、レオノーラの兄ドン・カルロは家族の不名誉を晴らすべく復讐の旅に出る。彼はアルヴァーロと出会い、ある洞穴の前で決闘を行うが、そのために命を落としてしまう。アルヴァーロはこれでレオノーラの肉親を二人も殺めてしまった。しかも驚くべきことに、その洞穴には世を捨てたレオノーラが住んでいた。悲劇的な運命を前に、レオノーラは自死を選ぶ。アルヴァーロは不幸な運命を呪うが、レオノーラの恩人グァルディアーノ神父に諌められ、神聖な三重唱の中、レオノーラが絶命して幕が下りる。

ヴェルディの作品の中で、それとして完成された序曲が付けられた数少ないオペラである『運命の力』は、ドラマティックな展開が人気でしばしば独立して演奏される。この序曲は従来の形式とは異なり、あらゆる劇中のテーマが駆使され、全体のドラマを集約した内容となっている。冒頭は金管によるシングル・フォルテの和音(譜例1)。この和音はアルヴァーロを表すものではなく、レオノーラに伴うもので、変えることのできない運命を暗示している。続いての弦による主題(譜例2)はオペラ全体をつらぬくテーマであり、悲劇的な運命を予感させる。フルート・オーボエ・クラリネットが次々にドン・カルロとアルヴァーロの二重唱のテーマがうたい(譜例3)、その後、トゥッティでレオノーラの祈りが表現されている。クラリネット・ソロはレオノーラとグァルディーノ神父の二重唱のテーマから採られている。

譜例 1

譜例 2

譜例 3

(Cl.4 大森 脩史)